LOGIN「はいっ。大丈夫ですか?」
「ん。大丈夫。変更届の書類出してくれたらいいよ」
「はい!!」
翌日。航大さんのアドバイスを元に、お給料の振込先変更を諸見里社長にお願いした。ふたつ返事でオーケーをもらい、書類をもらった。ネットバンクは開設まで若干時間がかかってしまうため、昼休憩の時に近くの銀行へ駆け込み、新しい口座を作ってきたので即、変更手続き!
(仲間のアドバイスのお陰だぁ…!!)
持つべきものは仲間。勇者も一人じゃ魔王は倒せないっ!
時々勇者一人旅で魔王を倒す強者プレイヤーもいるけどね。私は無理。 というわけで新しい口座情報を書いて早速書類を出した。もうこれで建真に私の給料は渡さないっ!! ――口座変更成功しました! 航大さんのお陰です!! 嬉しくて思わず航大さんにお礼のメッセージを送ってしまった。昨日連絡先を交換したから自由に連絡が取れる。 ――「とにかく! メイが必要と思われる商品はなに? 見繕って」 北都さんは強気で金さんを追い立てた。「あの……いいのでしょうか? すぐに用意できるお金もないのに……」「大丈夫。仲間のカイのお姉さんだったら信用できるから」 にこっと北都さんが笑ってくれた。「櫂、今日はここに連れてきてくれてありがとうね。そういえば櫂の洋服買いに来たのに、私の話になっちゃってごめんね」「いいよ。姉さんが困っているなら、俺は助けたい」「櫂……」「家族なんだから、もっと頼って相談して! なにも言ってくれない方が辛いよ。逆の立場だったら姉さんだって同じように怒ってくれるはずだ」 改めて櫂に指摘されて、確かに、と思った。 これからはもっと弟に助けてもらおう。こんなに頼りになるのに、私はいったいなにに遠慮して辛い時間だけを過ごしていたのだろう。ほんとうにバカだった。 ――メイの洗脳が解けた! あれ。なんか思考が軽くなった。なんだろう……視界がすっきりしたような、今までのことがほんとにばかばかしく思えるような…なんだか、そんな感じ! 「お。いい顔になった。メイ、素敵だよ。これから頑張ろう!」 北都さんが声をかけてくれた。よし、これから丹司さんと対峙できるようにめいいっぱい頑張るぞ!!「ふう~」 ため息をつきながら金さんが戻ってきた。店の奥に追いやられた彼はしばらくご自身の店内(なんでも売買屋)を物色し、手になにやら持っていた。顔は渋い。お金をあまり取れないことに不服感があるのだろう。でも、無い袖は振れない。 金さんは口をへの字に曲げながら、4個のアイテムを差し出してくれた。「これはなんでしょうか?」「盗聴器ひとつと監視カメラふたつと、さらにスマートウォッチです。ひとまず義理実家へ行く回数が多いので、彼らの家にひとつカメラを仕掛けましょう。おもしろいものが撮れたらもうけものです。USBコンセントタ
『今日、なにしてた?』 開口一発からこの台詞。私がどこでなにをしていたのか、逐一報告しなきゃならない。『ウソだったら承知しないよ』 そして報告後、毎回恐ろしい顔で言われる。嘘なんか言わないのに、まったく信用されていないのだ。『実家へ行こう』 ほとんど毎週末ごとに実家に付き合わされる。そして義母と夫のラブラブぶりを見せつけられる。私この場に必要? どうせだったら私も実家に帰りたい。でも、それは許されない。 こんな内容をまとめて彼らに聞いてもらった。話すとスッキリした。今まで誰にも相談できなくて苦しかったけれど、辛い気持ちを共有し、これからのことを考えてくれるなんて最高だ。 どうしてもっと早く行動しなかったんだろう。せめて家族に相談すれば、こんなに苦しむことはなかったのにと思う。「メイ。あんたは旦那に洗脳されちゃったんだね。そうなると”普通”がわからなくなって、どんな理不尽なことでも正しいって思うようになっちゃうんだ」「洗脳……」 恐ろしい言葉だ。でも、そう言われたらしっくりくる。私って丹治さんに洗脳されていたんだ…。「そうだよ姉さん。お義兄さんがそんなひどい男なんて、今までぜんぜん知らなかったよ。姉さんは大事にされているって思っていたのに、こんな束縛もおかしいよ! 今すぐ逃げよう」「櫂君。気持ちはわかる。だが今、録音した証拠だけではうまく言い逃れされてしまうだろう。こちらが優位に離婚するには、証拠! 今の時代、証拠が命! 芽衣さん、今こそ戦う時だ!」 力強く金さんが言ってくれた。「はい、ありがとうございます!」「証拠を撮るにはいろいろ必要だろう。アイテムはいっぱい揃っているから、ぜひお買い求めは”なんでも売買屋”で!!」 どーん!(ドヤ顔のカネナリ) 「法外な値段で売りつけたら許さないよ」 笑顔の北都さんがクギを刺してくれた。「わかっているとも」 そして顔と台詞が合っていない金
「ゲ。なんで北都がここに……」「カイから連絡もらった。金ちゃん、この前倒産品市場でタダ同然で手に入れてきたアイテムを法外な値段で売りつけているって聞いたけど? ほんとなの?」「北都さん、このタオルを僕の姉に1万円で売りつけようとしていました! 実は――かくかくしかじか」 櫂がポニーテールの美女に成り行きを説明してくれた。「金ちゃん……」美女がバキバキと指を鳴らした。 おお……すごい音がする……。「あっ。いや、そ、それは冗談のつもりで! なにも本気じゃないんだ。いいです、そのハンカチ、そのままご利用ください。ええい出血大サービス!」 しかし台詞と顔が合っていない。しぶしぶを通り越して相当嫌そうな顔をしている。「いい心がけ♡ でもそれじゃかわいそうだから……」 ポニーテールの女性がレジに100円を置いた。「それ、代金ね」「くっっ……非売品のレアアイテムが100円ッ……!」 黒スーツさんは嘆いていた。申しわけないことしちゃったかな。でも渡されたら普通に使うよね……。新品未使用でお金取られるとか思わないもん。 しかしあまりに彼の嘆きようが半端ないので、いたたまれなくなった。「あの……よろしいのでしょうか? 使ったのは事実ですし……」 なぜ私は謝っているのだろうか。「あ、いーのいーの、気にしないで。どうせタダで手に入れたものだし、勝手に言っているだけだから。それに、カイのお姉さんから違法価格はもらえないよ。私が100円も大金払ったんだから大丈夫!」 にこっと笑ってくれた。素敵な女性だな。でも、さっき指をバキバキさせていたから、格闘家なのかな?「姉さん。ちょうどいいや。この2人、困った人のためにすごく親身になってくれる人たちなんだ。紹介するよ」 話がひと段落したので、櫂からポニーテールの美人女性を紹介してもらった。彼女は東雲北都(しののめほくと)さん。さっき見た下の居酒屋でオーナーをやっていると聞いた。悪事をぶった斬る、必殺仕置き人のようなお仕事もやっているのだそう。
「悪いも悪いです。あんな風にクズの言いなりになっていたら、ますますクズが調子に乗って手が付けられなくなります。モンスターを助長させているのは、あなたの対応にも原因があります」「金さん、そんな、姉さんを悪く言わないでくださいよ! こんな風に言われたら誰だって……」「じゃあ櫂君。君は伴侶から死ねと言われたら死ぬのか?」「なっ……そんな極端な!」「極端な話ではないよ。嫌なことには”嫌”、クズの意味不明な言葉には”NO”と強く言えばいい。我慢なんてする必要はないんだ」 ――嫌なことには”嫌”、クズの意味不明な言葉には”NO”と強く言えばいい。我慢なんてする必要はない…… 彼の言葉は私の胸に重く響いた。 「我慢……しなくても、いいのですか?」「なぜ我慢する必要が?」「だって……みんなに結婚も祝ってもらって……夫は外面がいいから…不満を友達に言ってもあまり真剣に受け止めてもらえなくて……味方が誰もいなくて……」「姉さん、俺は味方じゃないの?」 櫂に言われてはっとした。「姉さんが苦しんでるなんて、ちっとも気が付かなかった。ごめん……。ゲームできなくなったのも、結婚して忙しいからだって思ってた。違ったんだね」「なんか……みんなに心配かけたくなくて…それで…私さえ我慢してれば丸く収まるって思うようになってしまって……」「そういう考えがそもそも間違ってる。今、あなたはクズ夫に心を殺されているんですよ。一生そのまま生きていくつもりですか? こんな酷い束縛にあっていながら、なぜそんなクズの言いなりになっているのですか。変わりましょう、今すぐに! その考えは間違っている!!」「姉さん、金さんの言う通りだよ。今すぐ立ち上がろう! 証拠を手に入れて離婚するんだ! 俺、協力するから!!」 ふたりから強く言われ、目頭が熱くなった。 もう我慢しなくてもいいの……?「ありがとうございます……」 うるっと
「櫂君のお姉さまですね?」「あ、はい。そうです」「あなた様からお金の匂いがします!」「は? お金……?」 なんなのこの人。頭やばい人?「隠さなくても俺にはわかります。紀美さんや航大さんと同じオーラです。あなた今、ずばり私生活で困っているでしょう。例えば恋人や伴侶に虐げられ、別れたいと思っているとか、この現状を打破したいとか、そういうやつです。今、どのポイントにいらっしゃいますか?」 矢継に言われてドキっとした。なんで…私、誰にも言わずにずっと耐えていたのに。だから気が付かれなくて、ずっと苦しくて……。 どうして初対面のこの人に見破られちゃうの?「紀美さんや宇治川さんと同じって……えっ、姉さん……お義兄さんとうまくいってないの?」 櫂が驚いて私に尋ねた。いたたまれなくなり、この際だからと白状した。「……ごめん。実はそうなんだ。心配するから黙っていたんだけど……」「姉さん、その話詳しく聞かせて」 そういったところで、ブーブーとバイブにしているスマートフォンが鳴り出した。家を出て1時間ほどしたら、大体連絡が入るいつものパターンだ。「丹治さん――私の夫からです。お店の外行ってきますね」 しかし黒スーツの彼は首を横に振った。「いいえ、だめです。ここで対応してください。また、その電話は録音しましょう。できればスピーカーにして、俺たちにも聞こえるようにしてください。その前に、彼はDV系・粘着系……どの系統のクズですか?」「えっと…私が家を出たら1時間おきに電話してくるので、粘着系だと。あと、極度のマザコンです」「わかりました。では、嘘は言わずに対応してください」「はい」 言われた通りスピーカーにして電話に出た。「はい」『遅い。5コール以内には出ろっていつも言ってるだろ。それで、今どこ?』 開口一発文句から始まるのが夫の電話のデフォ。 「えっと……櫂が明日のデートに着ていく服のコーディネートをしてほしいって言
「まずはコーデだけど……彼女はどんな男性が好みなの?」「わかってたら姉さんに聞かないよ」「それもそうね」 なるほど納得。「写真とかある? 好みの探りを入れてみるわ」 彼女が着ている洋服から好みを算出してみるとしよう。「えっと…一緒に撮った写真ならあるけど」「見せて」 弟にスマホを見せてもらい、画面を見て驚いた。 これっ…リオリオだ!!!!「この…今見せてくれた写真、写っている子があんたの好きな子?」「そう。可愛いだろ」「この子、私のゲーム友達!!」「は!?」 今度は櫂が素っ頓狂な声を上げた。「ほらっ、私、大学の時、めっちゃくちゃハマってたパズルゲームあったでしょ。あれ、オンラインでよく対戦する友達がいたのよ。リオリオって言うんだけど…」「それ!! 俺の好きな子!!」「えええ――――っっ!!??」 そんなことってあるの!? やだっ。じゃあ、櫂がリオリオとお付き合いして結婚したら…私、義姉になるってこと!!?? 嬉しいぃぃぃぃぃぃ――――♡♡「ちょっと櫂! リオリオが好きだなんて、お目が高すぎるわっ! 協力するからしっかり彼女のハートを撃ち抜いてきなさい」 というわけで櫂のキメッキメのデートコーデを完成させるため、秋葉原にやって来た。なぜ秋葉原なのだろうか。ここはゲーム好きが自作PCなんかを作ったりお宝ソフトを買いに来る街なのに。「いい店があるんだ」 キメッキメのコーデが選べる店なんて、こんなところにあるのかな。 繁華街から路地を一本入ったところに『大吉酒場』という店があるが、今は閉店して閉まっていた。居酒屋だから当然だろう。ビルの入り口に櫂はするりと入っていった。キメッキメコーデが買えるお店があるとはとても思えない。 「ねえ、櫂」 私は2Fを過ぎたあたりで前をずんずん歩い
『そうだけど…なんか、初めて仕事が嫌になっちゃったよ。葛野さんが嫌だっていうバッキンの気持ちが超わかった』『あいつマジ最低なヤツだから。まだしつこく飯誘われてんの?』 バッキンには以前、葛野さんがしつこいって愚痴ったことがあったからそれを心配してくれている。彼も葛野さんを嫌っている。同じ営業一課で葛野さんの方が成績がいいのだけれども、セコい手(内容は教えてくれなかった)を使って営業獲得しているらしく、女性のお客様が非常に多い。既婚者なのにモテを前面に押し出しての顧客獲得・営業成功なのだろう。『うん…それをお局がやきもち焼いてるみたいで、なんかとばっちり喰らったというか…』『あり
「お疲れ」 社に戻ると営業一課の柾谷櫂(まさたにかい)さんが声をかけてくれた。「お疲れさま」 柾谷さんは独身+清潔があってシゴデキイケメンなのですごくモテる。たしか年齢は…29歳だったかな? 私が27歳だから、2歳上でそこまで離れていないというのもあって、親近感があるけれど、仲良くしていたら他の女子に睨まれそう。 実は彼、同じソシャゲで一緒にプレイをしている仲間である。2人の時はゲーム仲間という間柄というのもあって、敬語はナシだ。「今日、キンモンする?」 キンモンとは、キングオブモンスターの略で、その名の通り最強のモンスターを育てるソーシャルゲームのことだ。今、世界的
「えっと…僕で手伝えることはある?」宇治川先輩が優しく聞いてくれた。「武田さんがお仕事頑張れるようになにか……」「無理なんです」「どうして無理なんて……」「葛野さんが私を贔屓にしているからって…朝から加藤さんと言い合いになってしまって、そのあと、大事なデータをデリートしたとやり玉に挙げてきたんです…それが私のせいにされてしまって」「は!!??」 宇治川先輩が目を見開いて驚いた。「んーと…葛野さんと仲がいいっていっても、あの人が勝手に武田さんに言い寄ってきているだけだよね? 僕、注意したことあったよね?」「はい。そうなんです。でも、加藤さんは信じてくれなくて…どうやら、葛野
「ちょっと! 武田さんっ!!」 頭の痛くなる声が降ってきた。加藤佳子(かとうよしこ)――お局の声だ。 彼女は独身貴族を貫いている、漫画で言うと赤渕眼鏡のザ・お局、という絵図が大変当てはまる女性だ。年齢3X年。この情報は非公開の模様。 多分、自分は『超・イケてるアラサー』だと思っている。いや、これ絶対だ。 とりあえずキンキンと癇に障る声がフロアに響き渡り、ただでさえ痛い頭がさらに痛みを増した。「はい、なんでしょうか…」げんなりして返事をした。「この書類、どうなっているの! さっき頼んだ手直しは済んでいるの!?」「はい。すでに共有にかけておりますが…」「どこに共有が